ベトナムは物価が安いというイメージをお持ちではないでしょうか。2025~2026年にかけてベトナム経済はGDP成長率8.02%という高水準を記録しています。
都市部では家賃・医療費・教育費が急上昇し、食費や交通費は依然として日本の3分の1以下と大幅に安く、物価の格差と二極化がすすんでいます。最新の公的データをもとに、ベトナムの物価水準を日本と比較しながら、特に若いベトナム人女性の生活への影響まで詳しく解説します。
ベトナムの物価とインフレの最新動向(2025~2026年)
CPI(消費者物価指数)の推移
ベトナム統計総局(GSO)によると、2025年の消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年比3.31%でした。国会が定めたインフレ目標(4.5%以内)を下回っており、過度なインフレは抑制された状況が続いています。2026年1月時点では前年比2.5%とさらに低下しています。
2014年以降はCPIが概ね2~4%台で安定して推移しており、2000年代~2010年代初頭に記録した二桁インフレ(2008年:+23.0%、2011年:+18.6%)とは対照的に、マクロ経済の安定が定着しています。
品目別の物価上昇率(2025年)
(品目) (上昇率(前年比))
薬・医療 +13.07%
住居費・建築材料 +約5.5%(CPI全体を1.38pt押し上げ)
食品・飲食業 +約3.5%(CPI全体を1.17pt押し上げ)
交通 -2.14%(ガソリン価格の下落)
医療費と住居費の上昇が目だっており、生活に直接影響する費目で負担が増しています。
(参照元)ベトナム統計総局(GSO)、ジェトロ ビジネス短信(2026年1月14日)
日本との物価比較:食費・家賃・交通費・医療費
全体として、ベトナムの物価は日本の約2分の1~3分の1程度とされています。ただし品目によって差が大きく、一概に「安い」とは言えない状況になっています。
食費・日用品の比較
(品目) ( ベトナム) ( 日本)
屋台・ローカル食(1食) 約150~300円 約700~1,000円
ミネラルウォーター(500ml) 約60円 約100~150円
スターバックス コーヒー 約600~700円 約600~700円
日本食レストラン(1食) 約1,500~3,000円 約1000~2000円
輸入食品(日本製) 日本より割高な場合も 基準
ベトナムでは、ローカルフードは圧倒的に安いですが、スターバックスなどのグローバルチェーンや輸入食品は日本と同水準か、それ以上になるケースもあります。
家賃の比較
(物件タイプ) (ホーチミン・ハノイ) ( 東京)
ローカル向け1LDK 約2~4万円 約10~15万円
中級コンドミニアム 約5~10万円 約15~25万円
外国人向けサービスアパート 約8~20万円 約20~40万円 |
都市部のローカル向け賃貸は日本と比べてまだ安い水準ですが、近年の急上昇により低~中所得層の家賃負担は月収の35~50%に達するケースも出てきています。
交通費の比較
交通費はベトナムが最も安いカテゴリのひとつです。Grab(ライドシェア)で市内15分の移動が約300~500円程度で可能です。日本でタクシーを使う感覚でGrabを日常的に利用できます。
最低賃金と平均賃金の上昇
2026年1月施行の最低賃金改定
政令293/2025/ND-CPにより、2026年1月1日から最低賃金が平均7.2%引き上げられました。
(地域) (月額最低賃金(VND)) (円換算)
ハノイ・ホーチミン 5,310,000 VND 約31,000~32,100円
地域Ⅱ 4,730,000 VND 約27,700円
地域Ⅲ 4,140,000 VND 約24,200円
農村部等 3,700,000 VND 約21,700円
引き上げの背景には、CPI上昇による最低賃金の実質価値の目減りがあります。調整がなければ、2026年末までに現行最低賃金は最低生活水準を約6.6%下回ると試算されていました。
平均賃金の推移
ベトナムの全国平均月収は2024年に約770万ドン(約US$305)、2025年には約840万ドン(前年比約8.9%増)へと上昇しています。都市部では採用競争の激化を背景に、特に高い賃金上昇が見られます。
(参照先)労働政策研究・研修機構(JILPT)
若いベトナム人女性への影響
生活費の圧迫
都市部で働く若い女性にとって、物価上昇の影響は複合的なものになっています。最低賃金・平均賃金は上昇していますが、家賃や医療費の上昇がそれを上回るケースも多く、可処分所得が圧迫されています。中・低所得層の若い労働者の場合、家賃だけで月収の35~50%を占めてしまい、貯蓄に回せる余裕がほとんどない状況も生まれています。
急拡大する美容・スキンケア市場
ただし、若いベトナム人女性の美容への支出意欲は衰えていません。ベトナムの美容・パーソナルケア市場は2025年に約27億4,000万米ドル規模に達しており、2029年まで年間約2.7%の成長が見込まれています。
特にZ世代・ミレニアル世代の女性が市場を牽引しており、化粧品やスキンケアは「自分を表現するツール」「生活の質を上げる投資」として位置づけられ、美容への自己投資は今や日常文化の一部となっています。
ベトナム人の60%以上がスキンケア製品を毎日使用し、洗顔料(49%)、香水(41%)、日焼け止め(31%)、保湿剤(25%)が主要アイテムです。最近は「厚塗りメイク」より素肌を整えるスキンケアへのシフトが顕著です。ホーチミン・ハノイの都市部女性を中心に、SNSで得た情報が購買行動に直結しています。
輸入コスメ・日本ブランドへの注目
物価上昇下でも、日本製の高機能スキンケアへの関心は高まっています。「汗・皮脂による崩れを防ぐより、日々のスキンケアで肌環境を整えたい」という意識が広まり、日本の品質重視型コスメが強みを発揮できる市場環境が育っています。
ただし、輸入品には関税がかかるため、日本のドラッグストア価格より高くなるケースもあり、価格と品質のバランスが購買判断の鍵になっています。
キャリアと家庭の両立
都市部の若い女性は「仕事・学業・家庭」を多忙にこなしながら、物価上昇に対応しなければなりません。「時短・手軽・多機能」の製品が支持されるのも、こうした生活実態を反映しています。また、住宅価格の急騰により、結婚・出産の計画を後回しにする若いカップルも増えているとの報告があります。
住宅価格の高騰と「持ち家の夢」
急上昇する不動産価格
ベトナムの不動産市場は近年、特に都市部で急激な価格上昇が続いています。ハノイのマンション価格は、過去5年で72%以上上昇(ベトナム不動産仲介業者協会)し、ホーチミンのマンション価格は同期間で約30%上昇しています。
2025年第1四半期のホーチミン新規マンション平均価格は、1平方メートルあたり約4,691米ドル(前年比+47%)となっています。
ハノイでは、2025年前半の平均価格が1平方メートルあたり約3,500米ドル(前年比+40%)となっています。
所得との格差拡大
不動産価格が年40~70%上昇する一方、平均所得の上昇は年6~10%程度にとどまっており、所得と住宅価格の差は急速に拡大しています。「持ち家が社会的安定と地位の象徴」という伝統的な価値観を持つベトナムでも、特に若い世代にとって、マイホーム購入は現実的な選択肢から遠ざかりつつあります。
賃貸派の増加
こうした背景から、長期賃貸を積極的に選ぶ若い世代が増えています。政府も2026~2030年の商業住宅プロジェクトの少なくとも30%を手頃な住宅に充てるよう義務づける方針を打ち出し、中・低所得層向けの供給増加を目指しています。
